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「好きなんでしょう?」 少女の問いかけに女は静かに頷いた。 「好き、嫌い、好き、嫌い、好き…」 女は部屋の隅に力なく横たわる、栗毛の男を見つめてブツブツ呟いた。 「好き、好き、好き…」 「食べちゃいたいほど?」 少女は女に問う。 「大好き」 「初めて会ったときから、その栗毛と、匂いと、……全部」 女はうっとりと恍惚の表情を浮かべて言葉を続けた。 「食べちゃいたいほど大好き」 少女はそんな女をじっと見詰めて、密かに口角を上げた。ぎゅっ、と手作り風味のテディベアを抱きしめ、少女は女に言った。 「そんなに好きなら、食べちゃえばいいのに」 「え?」 女は男から目を離し、微かに狂気の色が灯る青色の瞳を少女に向けた。「食べちゃえばいいじゃない」 「綺麗に輝くその栗毛も、それを縁取る豊かな睫毛も、八百万の色を灯す緑の瞳も、仄かに朱に染まる白い肌も、細く美しい指も、桜色の爪も、全部、全部、全部……」 「……」 少女のツインテールが妖しく揺れる。 「食べちゃえば、いいじゃない」 女はすぅっと目を細めた。 「そうね……」 男は己を見つめる怪しげな視線に気付くわけもなく、ただ固く目を閉じて寝ていた。 *** 「カーラースー何故泣くのー?」 「泣いてなんかねぇよ」 道端で拾った棒切れを指で操りながら歌うロキに、俺は一言言ってやった。 「カラスは泣かない。カラスは鳴くんだ」 「そりゃ、そうだけど」 俺のツッコミが不満だったのか、口を尖らせ顔を俯かせ、拗ねたような口調ロキが言った。……そんな顔もさまになるのが若干腹が立つ。 「ソフィ、何か苛ついているの?」 「苛ついてなんかねぇよ」 子供のような口調と声音でそう問うてくるロキを少しうざったく思いながら、俺は答える。 「嘘吐き!」 「がっ!」 どふ、とロキが持っていた棒切れで思いきり俺の横っ腹を突いた。 俺の苦しげな声に驚いたのか、クデュキネア通りを歩く人々が一斉に俺達を見た。見て、ぐりぐりと俺の腹に棒切れを抉りこませるロキを見て、老若男女関係なく頬を染めた。 「苛だってるだろ、お前さん」 ん? と流し目で俺を見、ロキが吐息混じりに囁く。無駄に顔がいいので、性別関係なしに見惚れてしまった。 「……悪かったよ」 棒切れを掴み、圧し折りながら俺はロキに謝った。 折れた棒切れをポイ、と捨てて、「まぁ、イライラすんのは分かるけどさ」と言った。 「そんな態度とられたら僕は悲しいよ」 ふぅ、と溜息を吐き、眉間に皺を寄せ、整った顔を曇らせたロキ。遠くに人々の騒がしい声がする。大方ロキの美しさに失神した女だろう。喧騒を無視し、俺はロキと言葉を交わす。 「でもよ―――……」 「ケヴィン・ウォーカーの友人たちは“何も知らない”としか言わないんだ!」 「ったく、意味わかんねぇ」 頭を掻きながらグチグチ文句を言う俺に、ロキが「牛乳でもお飲みよ」と一軒のカフェを指した。 「情報も整理したいしね」 俺は無言でそれを承諾した。 PR この記事にコメントする
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