× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 その地に足を踏ん張って立っても無駄さ 「嗚呼、貴女の美しさと言ったらこの場に咲き誇る花さえも霞んで見えてしまいますよ」 病院からそのまま花屋“兼”情報屋、「ミロワール」に直行したら、店主のミシェルが女を口説いていた。 「ミシェルさん、それはロキさんに言う言葉ですよ~~~」口説かれている女といえば、ケラケラと笑いながらミシェルの言葉を一蹴した。 「それって、ある意味嫌味ですよ」女の言葉に、ミシェルはがくっと項垂れた。 「……何、これ」 思わず俺が呟くと、相棒のロキが「見ての通りさ」と答えた。「通りさ!」とロキの言葉のあとに続いて幼い声が下から聞こえた。その声に聞き覚えがあったので、俺はロキの腰に抱きついているリリィに声をかけた。 「おひさ」 「お久しぶりなの!」 俺はリリィの頭を撫でてやり、しぶとく女を口説いてるミシェルに声をかけた。 「何してんだよ、このすけこまし!」 「お黙りなさいトマト頭!」 俺とミシェルの応酬に、女は心底可笑しそうに笑った。そして、「嗚呼、面白い」と言って、目尻に浮かぶ涙を細い指で拭った。 「今日和、ソフィスティさん」 俺の交友関係で、唯一俺を愛称ではなく、本名で呼ぶ女。 「ちわっす」 ここらでは珍しい、黒髪に若干ツリ上がった大きな黒い瞳。そして年齢の割には幼いつくりの顔。 「今日は―――何をしに来たんだ、ちぎる」 俺の問いに、ちぎるは「んふふ」と笑った。 「心配しなくてもみちるは来ませんよ。今日はお花を買いに来たんです」そう言ってまた、「んふふ」とちぎるは笑った。よく笑う女だな、と思った。 「義兄さんが来ないとは、それは本当ですか?」 ちぎるの言葉に、ミシェルは反応した。気付けばちゃっかり手を握ってやがるぜ、この色ボケ花屋は。実際問題、コイツの脳味噌に花でも咲いてんじゃないかと思う。一回解剖してみたい。 「えぇ、まあ。今日はお仕事があるらしく。……んふふ、清々するわぁ」 そう言ったちぎるの顔は本当に晴れやか。何時もは何考えているか判らない黒い瞳が、キラキラと光っている。……こいつらしくない。 どうやらちぎるは兄―――みちると相当に仲が悪いらしい。否、ちぎるがみちるを嫌っていると見える。 俺はあまりみちるとは喋ったことがない。見る限り、ちぎると顔は瓜二つ。だが性格は正反対のまるでチンピラのような性格らしい。そういえば、随分前にミシェルから聞いたことがある。 “みちるさんさえ居なければ、私はちぎるに結婚を申し込むのに!” その時のミシェルは傷だらけだった。……どうやらみちるは重度のシスコンらしい。あの容姿からは想像もつかない。 「で、貴方は何が目的で此処に来たんですか?」 ちぎるが俺に話しかけたのが不満だったのか、ミシェルが大層機嫌の悪い声で問うてきた。…俺を横目で見つめるその視線は、間違いなく呪いが篭っている気がする。ふふん、ざまぁみやがれ万年発情期。 「何、ちょっとした頼み事だ」 俺は視線に気付かないフリをして、花の香りに塗れたカウンターの上に一枚の写真を置いた。 「…何です?」 写真を手に取り、ミシェルは眉間に皺を寄せる。 写真の中でミシェルに笑顔を向けている、栗毛の男。「彼の名前はケヴィン・ウォーカー」 「一週間前、行方不明になった」 ふん、とミシェルは鼻で笑った。「貴方は何をお望みで?」 「彼の交友関係について探りを入れて欲しい」 「何々、見せてー」脇からロキの手が伸びて、ミシェルの手から写真を奪う。 「金は?」 ミシェルは当然の事を聞いた。 「金?」ははん、俺は小馬鹿にしたような顔を造った。 「お前、前回の情報は間違っていたぞ? そのお陰でホラ、」俺は包帯の巻かれた腕を情報屋に見せた。 「こんなお土産がついたんだが」 俺の言葉に、ミシェルは溜息を吐いて「“お代はナシ”、ですか」 「そーゆーこった」 「あらまぁ、この人、見たことある」 「えー、それ本当なのー?」 「確かこの前ウチに来たような……」 「へー、ちぎるちゃん家にー……。縁があるねぇ」 背後で、ロキ達が騒ぐ声が聞こえる。 PR この記事にコメントする
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